<北欧で暮らす日本人>フィンランドで見つけた幸せのカタチ/カルットゥネン典子さんインタビュー
2021年の世界幸福度ランキングで4年連続1位を獲得したフィンランド。そんな“世界でもっとも幸せな国”で暮らす日本出身のカルットゥネン典子さんに、仕事、子育て、フィンランドの文化やデザインの魅力、そして日々の幸せについてお話を伺いました。現地に溶け込んだ典子さんのサステナブルなライフスタイルとウェルビーイングとは?
PROFILE/カルットゥネン典子さん
埼玉県出身。フィンランドへの旅行をきっかけに現在のご主人と出会い、結婚。現在はフィンランド南部の都市ハメーンリンナで夫と3人の息子、愛犬と暮らす。ガラス製品などで有名な「イッタラ(iittala)」のガラス工場があるイッタラ村のミュージアム「DESIGNMUSEO IITTALA」で日本語ガイドを務める。
ーー典子さん、初めまして! フィンランドでの生活はもう15年になるそうですね。
「そうですね。初めてフィンランドを訪れたのは17年ほど前になります。当時の職場の先輩から旅行に誘われたのがきっかけです。フィンランドに住んでいる先輩の友人たちが現地を案内してくださるということで、こんな機会がなければきっとフィンランドに行くことはないだろうと思い、思い切ってご一緒させていただいたんです。案内してくれた友人の一人が現在の夫です」
ーーまさに運命の出会いですね。その出会いがきっかけでフィンランドに移住されたんですね。
「はい。夫と3人の息子、愛犬と一緒にハメーンリンナにある小さな村で暮らしています」
※ハメーンリンナ(Hämeenlinna):フィンランドの首都ヘルシンキから北へ約100km。ヴァナヤヴェシ湖畔の都市。
フィンランドを代表する作曲家ジャン・シベリウス(Jean Sibelius)の故郷としても知られる。
ーー初めてのフィンランド旅行ではどのような体験をされたのでしょうか?
「数日間サマーコテージで過ごしました。きのこ狩りやベリー摘み、釣りなどをして、それをみんなで一緒に料理したり、初めてフィンランド式のサウナも体験しました。普通の観光旅行とは違い、現地の方の案内でフィンランドの実際の生活を体験させてもらった感じでしたね。もともとアウトドアが好きだったこともありますが、そこからフィンランドに興味が湧きました」
ーーその時のフィンランドの印象は?
「学生時代からアメリカやヨーロッパを旅行したり、ホームステイの経験もあったのですが、フィンランドではとにかく自然の美しさと静けさに魅了されました。街の雰囲気が私の地元や日本の都市部とはまったく違い、空が澄んでいて星がきれいだったことが印象的でしたね」
ーー実際に移住されて、現地の生活にはすぐ馴染めましたか?
「私が今住んでいるところはハメーンリンナの中心部から30kmほど離れた人口200人程度の本当に小さな田舎の村です。日本で暮らしていたときは便利なことが当たり前で必要な物はすぐに買いに行くことができましたが、ここではそうはいきません。一番近いお隣さんとの距離も約1kmありますので、子どもたちが小さいときは不安がありましたし、主人がいないときに何かあったらどうしようと心細くなることもありました」
ーー初めての子育てがいきなり海外だったわけですね。
「ええ。子育て自体が初めてで何が“普通”なのかわからず、とにかく夢中でした。子供たちは年の差が近いため小さい頃は本当に手いっぱいで、あっちが泣いた、こっちも泣いたという状況で。でも、主人が本当によくサポートしてくれたんですね。食事の支度やおむつの交換など、子育てには積極的に参加してくれました」
ーー北欧では男性の子育てへの参加がカルチャーとして根付いていますよね。地域のサポートなどもあったのでしょうか?
「はい。困ったときに『助けてください』と言えば助けてくれる風土があります。あまり踏み込まず、でも突き離さず。適度な距離感でサポートしてくれています。フィンランド人は人との距離感の取り方が上手だと思います。子供たちの小学校は小さな学校ということもあり、みんなが顔見知りのような関係で、先生たちの目も非常に行き届いていますし、親御さんたちも『みんなで一緒に育てましょう』という気持ちを持っていますね」
ーー現代社会では地域で子育てをすることがなくなりつつありますが、それが残っているんですね。
「フィンランドでも今、日本のマンモス校のような学校が増えつつあります。私たちが住んでいる村では有り難いことに地域の繋がりが強いですし、私が外国人でも同じように受け入れてくれています。時々『子供たちに日本の文化を教えてくれない?』と頼まれて、折り紙や漢字を教えたりしているんですよ。子供たちの学校では<日本の日>というのを作ってくださって、日本のビデオを観たり、私が日本のことについて説明することもあります。そういった環境で暮らせていることは本当に幸せだと思いますね」
ーー近年、フィンランドの教育にも関心が高まっています。教育に関して日本との違いは感じましたか?
「フィンランド人は自己解決能力が高いと感じます。学校でもまず子供たちに考えさせ、自分たちでやらせてみる。そうやって自主性を伸ばそうとしているのだと思います。私はどちらかというとすぐ人に『これどうしたらいいかな?』と聞いてしまったりするんですけれど、そうではなくて、自分で対処法を考えて実践し、それでも解決できない場合は助けを求める。フィンランドでは子供の頃からそういう教育がなされていると感じます」
ーー次はお仕事について教えてください。ワークライフバランスを重視する北欧ではオンオフがはっきりしていますよね。典子さんはどうですか?
「私はイッタラのデザインミュージアムで日本語ガイドをしているので、観光シーズンに合わせて生活のスタイルも変化します。ハイシーズンの夏は週5日働いていますが、オフシーズンは週末が中心になりますので、一般的なフィンランド人の働き方とは異なるかもしれません。でも、効率よく仕事をして仕事以外の時間は家族と一緒にゆったりと過ごします。このライフスタイルは多くのフィンランド人に共通するところだと思います」
ーーお話を聞いていると、典子さんはフィンランドでの生活に自然に溶け込まれたようです。ギャップを感じることはなかったのでしょうか?
「気候の違いなどはありますが、私にとってはポジティブなギャップが多かったですね。フィンランド人と日本人は似ているところがあると言われますよね。フィンランド人も物事には比較的真面目に取り組みますし、約束も守ります。お酒を飲むと和やかになる方も多いですしね。あとは、フィンランド人とは沈黙になっても苦にならないというのでしょうか。そういった国民性や心地よい距離感が自分に合っているのだと思います」
ーーフィンランドの人々は何もしないことを楽しむのが上手だという印象があります。
「まさしくその通りで、フィンランド人にとっての休暇は何もせずに自然の中でゆったりと過ごすことです。美しい景色を眺めたり、自然の中でのんびりと本を読んだり。それこそが彼らの休息なんですよね。それから、フィンランドの人たちは慌てるということがほとんどありません。例えばお客さまがいらした時に『早くお茶を出さなきゃ』とバタバタするのではなく、お客さまと一緒におしゃべりをしながらお茶を用意するんです。それもおもてなしの一つと考えているんですよね」
ーーそういった社会で長く生活されて、典子さんご自身が変わったと感じる点はありますか?
「日本にいるときはよく『のんびりしているね』と言われていたんですけれど、フィンランドの方はもっとゆったりしているので、<ゆとりを持って生活すること>を自分のものにできてきたのかなと思います。それでもまだ『いつも動いているね』と言われますけれど(笑)。もう少し落ち着いてゆっくり、ゆったりと生活していきたいなと常々思っています」
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