<インタビュー>北欧の夏、自然に囲まれたサマーハウスの暮らしに学ぶもの。
2020年8月公開記事
爽やかな風が舞い、穏やかな陽射しが降り注ぐ、北欧の夏――。
人々は自宅から離れたサマーハウスへ移動し、家族や友人とともに、夏休みのほとんどをそこで過ごします。余暇をサマーハウスで過ごす文化は古くから北欧の国々に根付いており、そこでは現代的な生活から離れ、自然の中でプリミティブな暮らしを楽しむことがテーマです。
8月のある日、私たち編集部は、ノルウェーにサマーハウスを持つマリエさんとルドヴィグさん夫婦を訪ね、一家の夏の過ごし方とワークライフバランスについて話を聞きました。
FAMILY PROFILE
母:マリエさん/写真家・アーティスト(ノルウェー出身)
>> マリエさんの作品とプロフィールはこちらから
父:ルドヴィグさん/VFXアーティスト(スウェーデン出身)
娘:イネスちゃん
息子:イヴァン君
サマーハウスというと、日本では富裕層の別荘というイメージを持つ方も多いかもしれません。北欧では、多くの人が家族から受け継いだサマーハウスを持っており、そのほとんどが森の中や湖畔に佇む小さな木造のキャビン。近年は、モダンなデザインのサマーハウスを好む人も増えていますが、昔ながらの素朴なサマーハウスで、シンプルな生活を楽しむ人も多くいます。その暮らしがどのようなものか、早速マリエさんとルドヴィグさんにお話を伺いましょう。
そこに暮らすひとに受け継がれるヒストリー
数年前に購入したというマリエさん一家のサマーハウスは、ピンクの薔薇が目印の真っ白なキャビン。可愛らしい外観が目を惹きますが、購入の際はこのキャビンにまつわるヒストリーも決め手になったそうです。
ーーおはようございます。今日はご家族のサマーハウスでの生活を中心にお話を聞かせてください。とても可愛らしいキャビンですが、ここに決めた理由は何ですか?
マリエさん「夫がスウェーデン人なので、私たちはずっとスウェーデンでサマーハウスを探していました。ですが、ノルウェーでこのキャビンの広告を見たときに、一目惚れしてしまったんです。実際にここへ見学に来たとき、その気持ちがさらに強くなりました。
見学の際に、キャビンの前オーナーが、このサマーハウスで過ごした幼年期の思い出を話してくれました。彼は、楽しい思い出が詰まったこの場所を、大切に引き継いでくれる人を探していたそうです。私たちは、彼と彼の家族の物語を聞いて、ここが子供たちにとって楽しい思い出を作るのに最適な場所だと鮮明にイメージできましたし、私たち家族にとっても、自然の中で創造的な時間を過ごせる場所になると確信できたので、迷わず決めました」
※キャビン(cabin)=木造の小屋
ーーこのサマーハウスのどこが気に入っていますか?
マリエさん「私も夫のルドヴィグも、ジャングルのような手付かずの自然が残っているところが気に入っています。このキャビンはたくさんの大きな木に囲まれていて、誰にも邪魔されない私たちだけのプライベートな世界がそこにあります。ここからはオスロフィヨルドへも歩いて行くことができ、テラスからは美しい湖を眺めることもできます。この景色を見ると何だか落ち着いて、我が家にいるような気分になれるんです」
自然との対話を楽しみ、想像力を高める
森や湖に囲まれたマリエさん一家のサマーハウス。喧騒から離れた豊かな自然の中で、型通りのライフスタイルにとらわれずに生活することで、新たな学びや癒しを得ることも多いそうです。
ーーサマーハウスに滞在している間、ライフスタイルに変化はありますか?
マリエさん「サマーハウスで過ごす夏の間は、なるべく時計を見ないようにしています。一日中、窓を開け放しにして、可能な限り屋外で過ごしています。これは、暗くて寒い北欧の冬の生活と対照的な過ごし方です。
また、サマーハウスでは、子供たちとなるべく多くの時間を過ごし、自然の中でクリエイティブな遊びやプロジェクトを行うようにしています。普段の生活と比べて、やるべきことや整理すべきことは少ないので、自然に触れながら自分自身の心や身体をケアする時間も増えますね」
ーー二人のお子さんは、サマーハウスでどのように過ごしていますか?
マリエさん「私たちが子供たちに教えることができる最も重要なことの一つは、子供たちが創造性を持って、自分自身で問題をうまく解決できる力を養うことだと思っています。ですので、私と夫はサマーハウスでの生活を通して、子供たちがやりたいことを自分の力でスタートできるように手助けしています。
たとえば、ビーチに放棄されたブイを木に吊るしてブランコにしたり、畑でベリーを摘んでジャムにしたり。子供たちがジュエリーを作りたければ、ビーチで見つけたガラス片を使ったりします。自然の中でできることはたくさんあり、二人とも自分たちで遊びを見つけて楽しんでいると思います」
取材に訪れたこの日も、汚れることを気にせず、裸足で鬼ごっこやブランコ遊び、粘土遊びなどをしながら、一日中屋外で過ごしていた子供たちの姿が印象的でした。
ーー夏休みはどのくらいの期間、サマーハウスに滞在していますか?
マリエさん「私たちは毎年、なるべく早く自宅からサマーハウスに移動するようにしています。子供たちは6月中旬から約2ヶ月間の夏休みがあるので、長い時はそのほとんどをサマーハウスで過ごしています」
家族や友人との距離感は人によってさまざまですが、2ヶ月もの間、小さなサマーハウスで、家族とずっと一緒にいることにストレスは感じないのだろうか。不躾だと思いつつも、マリエさんとルドヴィグさんに単刀直入に聞きました。
ーー限られたスペースで長期間、家族と一緒にいることについてはどう思いますか?
ルドヴィグさん「素晴らしいですよ! なぜなら、掃除が必要な場所はほとんどありませんから(笑)。冗談はさておき、狭いスペースの中ですべてを機能させると、自由になれることも多くあります。例えば、購入と維持にかかる費用が少なく済むので、その分、休暇を長く取ることができます。何か高価なものにお金を払って、それを維持するために働き続けるとすると、休暇がほとんどなくなってしまいますからね」
ーーたしかに、そうなるとせっかくの休暇が短くなり、本末転倒ですね。
ルドヴィグさん「ええ。私たちは普段はもっと広い家に住んでいますが、とにかく家族全員が同じ部屋にいることが多いです。普段からお互い、近くにいることに慣れているんですよね。それに私の場合、仕事では長時間一人で作業することが多いので、家族との時間は良いバランスが取れていると思います」
マリエさん「そうですね。私たちのキャビンは小さく見えますが、広い庭と森があるおかげで実際よりも大きく感じられますし、ここでは一日のほとんどを屋外で過ごしているので、窮屈に感じることはありませんね」
ドラマティックな自然の変化を楽しむ
夏になると、太陽の光を浴びる機会を逃すまいと、とにかく外に出る北欧の人々。日本とは少し違う、その楽しみ方。誰もが開放的になり、自然の中で短い夏の恵みを享受します。
ーー北欧の皆さんは本当に「夏」を楽しんでいますよね。サマーハウスの生活の中で、一番好きな時間はいつですか?
マリエさん「日々、自然の中で起こる変化を見ることでしょうか。初夏はさまざまな植物の開花を見ることができますし、7月は太陽の陽射しや雨上がりの虹、嵐のような強い風など、どれもドラマティックです。夏の終わりには、美しい夕暮れを見ることができます。
それから、フィヨルドのビーチで過ごす時間も気に入っています。朝早く起きてビーチで朝食をとったり、夜に泳ぎに行く(※)のも好きですね。家族みんなで一つのことに集中している時間も一体感を感じられて、私にとってはとてもポジティブなエネルギーになります」
※北半球の高緯度に位置する北欧諸国では、夏至前後には日が沈まない地域もあるほど、夏の日照時間が長い。
ーー先ほど「時計を見ないようにしている」とおっしゃっていましたが、サマーハウスでのルーティンはありますか?
マリエさん「以前はありませんでしたが、ここ数年でルーティンを持つようになりました。たとえば、ビーチやテラスで朝食をとること。朝は毎日、夫がエスプレッソマシンで淹れてくれるコーヒーを飲みます。そして、温かいランチ。夫はスウェーデン人なので、スウェーデンのランチの伝統(※)を取り入れています。
また、私たち家族のモットーは『泳ぐチャンスを逃さないこと』なので、天気にもよりますが、一日一回はフィヨルドへ泳ぎに行くこと。とは言え、私たちはここでの生活にあまり多くのガイドラインを置かないようにしています。ノルウェーの夏の天気は予測不能なので、ルーティンに縛られず、その瞬間を大切にすることが一番です」
※スウェーデンでは、日本と同じように作りたての温かいランチをゆっくりと食べる習慣がある。一方、ノルウェーではサンドウィッチなど、手軽なもので時間を掛けずに手早く済ませる人が多い。
贅沢よりも、自分たちの手でできることを
サマーハウスでの生活は、想像以上にシンプルで慎ましい。例えば、昔ながらのキャビンでは、お湯が出ない、お風呂がない、インターネット回線がないといったこともあるといいます。
ーーご家族にとって、サマーハウスでのプリミティブな生活から良い影響はありますか?
ルドヴィグさん「たぶん私たちは、サマーハウスにいる時の方がより健康的ですね。ヘルシーなものを食べていますし、時間がある分、食事を準備する段階から手間をかけています。また、ここでは日常的にウォーキングやスイミングをしているので、普段よりも溌剌とした生活を送れていると思います」
マリエさん「ここでの生活は、私たちの価値観によく合っていると思います。私たち家族は、贅沢することよりも、自分たちの時間を有意義に使うことに重きを置いています。サマーハウスでは時間がたっぷりありますので、たとえば、何かを買うのではなく、自分たちで作る。捨てる代わりに修理する時間があります。それは私たちが子供たちに教えたいこともあります」
自分を大切にすることで、仕事と家庭の両方で責任を果たす
フリーランスとして働いているマリエさんとルドヴィグさん。一般的なオフィスワークとは異なる働き方ですが、夏休みの間サマーハウスで生活をしていると、普段の生活に戻るのも大変なのではないでしょうか。
ーー長い休暇を過ごした後、マインドを仕事に切り替えるための特別な方法はありますか?
マリエさん「サマーハウスにいる間も仕事をすることがありますが、家族と一緒に長い休暇を過ごしたからこそ、日常生活に戻る準備ができると感じています。 北欧では、秋が一年のスタートになるので、夏休みは次のプロジェクトのアウトラインを作るための良い休暇になります。私の場合は、しっかり休むことで落ち着いて次の仕事に取り掛かることができ、蓄えたエネルギーを仕事に費やすことができると思っています」
ーーなるほど。しっかり休むからこそ、集中して仕事に取り組めるということですね。最後になりますが、お二人にとって仕事と家庭を両立させるために最も大切なことは何ですか?
マリエさん「仕事と家庭のバランスを取るために最も重要なことは、自分自身を大切にすることだと思っています。家族を持つ前は、自分の自由な時間はすべて仕事に費やしていました。母親になってからは、子供たちを一番に考えるあまり、自分の心や身体をケアすることを忘れてしまっていたように思います。ここ数年で私は、良い母親とアーティストを両立するためには、休むことも必要だと学びました」
ルドヴィグさん「最も重要なことは、仕事をしすぎないことですね(笑)。私も妻と同じように、フリーランスとして働いていますが、長いスパンの仕事や納期がタイトでないプロジェクトを、主に引き受けるようにしています。メインのプロジェクトの他に期間の短いプロジェクトをこなすこともありますが、複数のプロジェクトが並行しないように気を付けています」
ーーそれは、家族との時間を確保するためにですか?
ルドヴィグさん「そうですね。同時に多くのプロジェクトが進行する場合、最悪の状況になる可能性があるので。そうなると、家庭と仕事の両方で自分の責任を果たすことが難しくなりますし、自分自身のことにも気が回らなくなってしまいますから」
ーーご家族の夏の暮らしを拝見して、便利なものに囲まれた生活からは得られない“充足感”のようなものが感じられました。今日はどうもありがとうございました。
日常から離れ、ゆっくりと休む時間あるからこそ生まれる余裕。自然に身を委ねるように、プリミティブな生活を楽しむ北欧の夏の暮らしには、人生を豊かにするヒントが詰まっているかもしれません。
>> <北欧で暮らす日本人>ノルウェーのスローライフを楽しむリサさんの一日
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2020年11月、THE STYLE OF NORTHのYouTubeチャンネルを開設しました。マリエさん一家の夏の一日に密着した映像をぜひご覧ください。